労働者派遣事業と請負事業の違い

労働者派遣事業とは

労働者派遣とは、労働者派遣法に次のように規定されています。
「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し、当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものをいう」(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という)第2条第1号)と規定されています。

何のことか分からないと思いますが、後でわかりやすく説明します。

請負事業とは

請負とは、民法では「請負契約」「委任契約」「準委任契約」が、民法に規定されていないが一般的に行われている「業務委託契約」が、偽装請負の対象となる請負契約となります。
 ・請負契約(民法632条)
    仕事の完成に対して報酬を支払う契約
 ・委任契約(民法643条)
    当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾する
    ことによって、その効力を生じる契約
 ・準委任契約(民法656条)
    法律行為となる事務処理以外の業務の遂行を目的に対価が支払われる契約
 ・業務委託契約(法律用語ではない)
    委託者が受託者に対して、何らかの業務を委託する内容の契約

つまり、「偽装請負の対象となる請負契約」とは、ざっくり言うと、契約の種類を問わず、発注者が行うべき業務の全部又は一部を他の会社に委託する契約全般を意味します。

労働者派遣事業と請負事業の違い

労働者派遣事業と請負事業との違いは、下の図の通り、注文主(ほかに「発注者」や「委託者」等、業務を請負業者に委託する会社のこと)から請負業者(ほかに「受託者」等、業務を注文主から受託する会社のこと)の労働者に対し、指揮命令を行うことができるかできないかがポイントとなります。

偽装請負・二重派遣とは

偽装請負とは

偽装請負とは、形式上は請負・委託として契約を締結しているものの、発注者側からの指揮命令等を受けて受託者の労働者が作業を行う形態となっており、その実態として労働者派遣となっている状態をいいます。

労働局から偽装請負と判断された場合は、労働者派遣法違反または職業安定法第44条の「労働者供給事業の禁止」違反として、労働局から指導を受けることとなります。

二重派遣とは

偽装請負と似た形態として「二重派遣」があります。
二重派遣とは、文字通り派遣先が派遣元事業主から労働者派遣を受けた労働者をさらに業として他の派遣先に派遣することをいいます。

通常、二重派遣は派遣の許可を取得している派遣会社が派遣労働者を派遣して、その派遣先がさらに他の派遣先に派遣することを言いますが、派遣の許可を取得していない会社が同じことをしても当然、二重派遣となります(派遣の許可を取得していない会社が派遣している時点で労働者派遣法の違反となりますが)。

二重派遣の場合は、労働者を供給することによって利益を得る事業とみなされ、職業安定法第44条の「労働者供給事業の禁止」に違反することとなり、労働局から指導を受けます。

派遣元が知らない間に、二重派遣となる場合とは

通常、二重派遣とは「派遣先が故意に他の派遣先に派遣すること」を言い、派遣元もそのことを分かって行っていることが多いのですが、派遣元が意図せず、結果的に二重派遣となる場合もあります。

例えば、派遣先が請負会社で、注文主から業務を請け負っているところに派遣労働者を派遣することは労働者派遣法に抵触しません。
しかし、そこで、発注者から派遣労働者に対して少しでも指揮命令が発生した場合は二重派遣となります。

この場合、派遣先が労働者を供給した立場で、注文主が供給された労働者を受け入れたという立場になり、職業安定法第44条の労働者供給事業の禁止に抵触することとなります。
また、派遣元も、派遣労働者が注文主から指揮命令を受けていることを知っていたにも関わらず、そのまま派遣を続けていた場合は、派遣先の労働者供給に協力したとして、労働局から指導を受けます。

下請法とは

請負事業については、偽装請負として労働局から指導を受ける以外に、下請法違反として処分される可能性があります。

下請法とは

下請法(正式名称を「下請代金支払遅延等防止法労親事業者」といいます)は、親事業者(下請法では、発注者・委任者・委託者等を「親事業者」と言います)が下請事業者(下請法では、受注者・受任者・受託者等を「下請事業者」と言います)に業務を委託する場合、親事業者が下請事業者に対し、その優越的地位を利用して、下請代金の減額や委託料の支払いを遅らせるなどの濫用行為を取り締まることにより下請取引の公正化を図り、下請事業者の利益を保護するために昭和31年に制定されました。

下請法の適用要件

下請法の適用を受けるためには以下の①、②の2つの要件を満たす必要があります。

① 取引内容要件

下請法の規制対象となる委託業務は、次の4つの委託業務です。
  a 製造委託業務
      物品を販売し、または物品の製造を請け負っている事業者が、
      規格、品質、形状、デザインなどを指定して、他の事業者に
      物品の製造や加工などを委託することをいいます。
  b 修理委託業務
      物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者
      に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合
      に、その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいま
      す。
  c 情報成果物作成委託業務
      ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなどの情報成果
      物の提供や作成を行う事業者が、他の事業者にその作成作業を
      委託することをいいます。
       情報成果物の代表的な例としては、次のようなものがあり、
      物品の付属品・内蔵部品、物品の設計・デザインに係わる作成
      物全般を含みます。
       (例) ・プログラム
           ・映像や音声、音響などから構成されるもの
           ・文字、図形、記号などから構成されるもの
  d 役務提供委託業務
      他者から運送やビルメンテナンスなどの各種サービス(役務)の
      提供を請け負った事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者
      に委託することをいいます。
       ただし、建設業法に規定される建設業を営む事業者が請け負う
      建設工事は下請法の対象となりません(建設業法の対象となるた
      め)。

② 資本要件

下請法の規制対象となる親事業者・下請事業者は以下の資本金要件に該当する親事業者・下請事業者です。
  a 【製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託(プログ
     ラム作成、運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に係るもの)】
     の場合

親事業者 下請事業者
資本金3億円超資本金3億円以下(個人事業主を含む)
資本金1千万円超3億円以下資本金1千万円以下(個人事業主を含む)

  b 【情報成果物作成委託・役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の
     倉庫における保管及び情報処理に係るものを除く)】の場合

親事業者 下請事業者
資本金5千万円超資本金5千万円以下(個人事業主を含む)
資本金1千万円超5千万円以下資本金1千万円以下(個人事業主を含む)

下請法における親事業者の義務

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のため、親事業者には次の4つの義務が課せられています。
  a 発注書面を交付する義務(下請法第3条)
  b 取引に関する書類を作成・保存する義務(下請法第5条)
  c 支払期日を定める義務(下請法第2条の2)
  d 遅延利息を支払う義務(下請法第4条の2)

下請法における親事業者の禁止事項

下請取引の公正化及び下請事業者の利益保護のため、親事業者には次の11項目の禁止行為が定められています。
下記の11項目の禁止行為については、たとえ下請事業者の了解を得ていても、また、親事業者に違法性の意識がなくても、これらの規定に触れるときは下請法違反となります。

 禁 止 事 項概   要
1受領拒否の禁止 (下請法第4条第1項第1号)注文した物品等又は情報成果物の受領を拒むこと。
2下請代金の支払遅延の禁止 (下請法第4条第1項第2号)物品等又は情報成果物を受領した日(役務提供委託の場合は、下請事業者が役務を提供した日)から起算して60日以内に定められた支払期日までに下請代金を支払わないこと。
3下請代金の減額の禁止 (下請法第4条第1項第3号)あらかじめ定めた下請代金の減額をすること。 協賛金の徴収や原材料価格の下落を理由とする減額など、名目や方法、金額に関わらず、あらゆる減額行為が禁止されている。
4返品の禁止 (下請法第4条第1項第4号)受け取った物を返品すること。 ただし、不良品などがあった場合には、受領後6か月以内に限って、返品することが認められている。
5買いたたきの禁止 (下請法第4条第1項第5号)類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。
6購入・利用強制の禁止 (第4条第1項第6号)親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。 下請事業者に発注する物品の品質を維持するためなどの正当な理由が無いにもかかわらず、親事業者が指定する物(製品、原材料等)や役務(保険やリース等)を強制して購入利用させることをいう。
7報復措置の禁止 (第4条第1項第7号)下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して、取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。
8有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止 (第4条第2項第1号)有償で支給した原材料等の対価を、当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。
9割引困難な手形の交付の禁止 (第4条第2項第2号)一般の金融機関(銀行や信用金庫等)で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。 ※ 公正取引委員会及び中小企業庁では、現 在、支払手形の手形期間が繊維製品に係 る下請取引においては90日、その他の下 請取引においては120日を超えるいわゆる 長期手形は、この「割引困難な手形の交 付の禁止」に違反するおそれがあるもの として取扱い、すべて同期間内に改善す るよう親事業者に対して指導している。 ※ 令和3年3月31日、関係事業者団体に対 し、公正取引委員会事務総長及び中小企 業庁長官の連名により、下請代金の支払 に係る手形等のサイトについては、おお むね3年以内(令和6年)を目途に、可能 な限り速やかに60日以内とするよう要請 している。
10不当な経済上の利益の提供要請の禁止 (第4条第2項第3号)下請事業者から金銭、労務の提供等をさせること。 親事業者が自己のために、下請事業者に金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させることで、下請代金の支払とは独立して行われる、協賛金や下請事業者の従業員の親事業者への派遣などの要請が該当。
11不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止 (第4条第2項第4号)費用を負担せずに注文内容を変更し、又は受領後にやり直しをさせること。 発注の取消しや発注内容の変更を行ったり、受領した後にやり直しや追加作業を行わせる場合に、下請事業者が作業に当たって負担する費用を親事業者が負担しないことをいう。

下請法における調査・指導

公正取引委員会及び中小企業庁では、下請取引が公正に行われているか否かを把握するため、毎年、親事業者、下請事業者に対する書面調査を実施しており、必要に応じて、親事業者の事務所等を訪問し、取引記録などの帳簿書類等を確認し、不備があれば親事業者に対し指導を行います。

偽装請負と下請法との関係

上記で説明した通り、下請法は、親事業者が下請事業者に対し、その優越的地位を利用して、下請代金の減額や委託料の支払いを遅らせるなどの濫用行為を公正取引委員会が取り締まるのに対し、偽装請負は、形式上は請負・委託として契約を締結しているものの、発注者側からの指揮命令等を受けて受託者の労働者が作業を行う形態となっており、その実態として労働者派遣となっている状態を労働局が取り締まります。


このように、それぞれの行政機関が指導監督する対象に重なる部分がある場合(公正取引委員会、労働局とも請負事業に関する法律違反を取り締まっている)、一般的には、公正取引委員会と労働局との間でお互いが所掌する法律について調整が行われていると思うかもしれませんが、実際は、世間でよく言われる『縦割り行政』がここでも行われており、公正取引委員会は下請法に抵触するかどうかのみに焦点を当てており、労働局は実体として労働者派遣となっていないかということのみに焦点を当てて指導監督を行っています。


公正取引委員会が下請法に基づく指導監督を行う場合、偽装請負については所掌の範囲外であるため指導することはなく、労働局が偽装請負について指導監督を行う場合も、下請法については所掌の範囲外であるため指導は行われません(場合によっては、それぞれの行政に情報提供等を行う可能性はあります)。

偽装請負とみなされるポイント

以下の10項目のうち1つでも出来ていなければ、偽装請負とみなされ、労働局から指導を受けます。(労働省告示第37号)

① 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項イ(1))

発注者の社員が請負業者の労働者に対し、直接、指揮命令を行ってはいけない。

② 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項イ(2))

発注者の社員が、請負業者の労働者に対する勤務評価を行ってはいけない。

③ 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く)を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項ロ(1))

請負業者の労働者の就業時間の指示等を、発注者の社員が行ってはいけない。

④ 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く)を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項ロ(2))

請負業者の労働者の残業や休日出勤の指示等を、発注者の社員がしてはいけない。また、請負業者の労働者の勤務時間の管理を発注者の社員が行ってはいけない。

⑤ 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項ハ(1))

請負業者の労働者の就業時のルール(就業規則等の適用)について、発注者のルール(就業規則等)に従わせてはいけない。

⑥ 労働者の配置等の決定及び変更を請負業者が自ら行うこと(告示第2条1項ハ(2))

請負業者の労働者の就業時の配置等を、発注者の社員が決めてはいけない。

⑦ 請負業者は、業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること(告示第2条2項イ)

請負業者が業務の処理に必要な資金を発注者に出してもらってはいけない。

⑧ 請負業者は、業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと(告示第2条2項ロ)

請負業者が業務の処理の際に生じた事故等については、請負業者が加入した損害保険等で処理すること。

⑨ 請負業者は、自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは機材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること(告示第2条2項ハ(1))

請負業者が請負業務を行う際に必要な機械や設備、機材や材料等については、請負業者自らが調達すること。

⑩ 請負業者は、自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること(告示第2条2項ハ(2))

請負業者は発注者から自らの専門的知識や経験等に基づき請負業務を行うのであって、発注者から技術指導等を受けてはいけない。

当事務所が提供するサービス

当事務所では、お客様の請負事業の現状をお伺いし、お客様の負担は少なく、それでいて偽装請負とならないよう具体的な対策についてアドバイスいたします。また、労働局への対応方法についてもレクチャーいたします。

労働局から調査の依頼があった場合は、出来るだけ早く当事務所にご連絡ください!

請負事業について労働局の調査への対応はかなりの時間を要します!

「明日、労働局が調査に来るって言ってるねんけど、対応お願いします」と言われても対応できかねる場合があります。
したがって、もし、労働局から請負事業の調査の依頼があった場合は、出来るだけ早く当事務所にご連絡ください!

また、「当事務所のことを知ったのが最近だったため連絡するのがギリギリになった」等やむを得ない事情がある場合でも当事務所へご相談ください!何とか対応させて頂ける場合がございます。

料金のご案内

  • 「労働局需給調整事業部(課)から調査は受けていないが、自社の請負事業(委任・準委任・業務委託契約を含む)が労働局から偽装請負として指導されないか確認して欲しい」という事業所様が対象となります。
  • 現在実施している請負事業(委任・準委任・業務委託契約を含む)について、適正な請負事業となっているか、契約書や請求書、実際の請負事業の運営方法等を確認し、労働局から【偽装請負】として指導を受けないための契約書、請求書の作成方法や実際の請負事業の運営方法についてアドバイスいたします。
  • 下記の報酬額のほか、遠方の場合は別途、交通費等を頂戴する場合があります。
  • 当事務所での標準的な報酬額は、下記の通りです。実際には、依頼される具体的な業務内容や範囲によって報酬額は異なりますので、お話を伺った上で、お見積いたします。
サービス内容報 酬 額
請負事業(委任・準委任・業務委託契約を含む)点検150,000円(税別)〜