こんにちは。派遣の許可申請・調査対応、偽装請負・フリーランス法対策を専門とする社会保険労務士の東谷です。

定着シリーズの最終回、【実践編】です。
前回の【考察編】では、「定着は入口で決まる」「離職の原因は派遣先にあることが多い」「ミスマッチは事前に防ぐ」、そして「定着の仕組みは、すでに法律の中にある」という私の考えをお話ししました。

今回は、それを実際の行動に移すとき、どこから手をつけ、どこでつまずきやすいかを整理します。



まず、やることの全体像

定着率を上げる取組は、大きく次の流れになります。
① 現状を数字で把握する
② 就業初期のフォローを仕組みにする
③ 離職の多い派遣先に働きかける 
④ 採用時のミスマッチを減らす 
⑤ 定着に効く仕組みを取り入れる。

ひとつずつ見ていきます。



① まず、いつ・どこで辞めているかを数字で知る

最初の一歩は、現状把握です。いつ(就業何日目で)、どの派遣先で、どんな理由で辞めているのかを、数字で並べてみます。ここが、すべての出発点になります。

ところが、実際にやってみると、「退職の記録が、辞めた事実しか残っていない」「派遣先ごとに集計する形になっていない」というケースが少なくありません。まず、この数字での把握でつまずくことが多いのが実情です。




② 就業初期のフォローを「仕組み」にする

早期離職は、就業初期(初日・7日・30日・90日あたり)に集中しやすいものです。ここを、担当者の気配りに任せるのではなく、タイミングと聞く内容を決めた「仕組み」にできるかが分かれ目です。

「業務量」「人間関係」「指示の分かりやすさ」といった、本音を引き出す問いを、誰が担当しても同じように聞ける形にしておく。言葉にすると簡単ですが、日々の業務に追われる中で定着させるには、設計と運用の工夫が要ります。



③ 離職の多い派遣先に、どう切り出すか

派遣先ごとの離職を数字で把握すると、「特定の派遣先だけ早期離職が多い」傾向が見えることがあります。原因が派遣先の受け入れ環境にある場合、そこに改善を働きかける必要があります。

ただ、ここは繊細です。大切な取引先に対して、角を立てずに、しかし実効性のある形で受け入れ態勢の改善を提案するには、データの示し方や、伝え方の設計が問われます。ここで踏み込めずに、離職を繰り返してしまう会社は少なくありません。



④ 採用のミスマッチを減らす

入口のギャップを防ぐには、採用時に現場のリアルも正直に伝えることが有効です。とはいえ、伝えすぎれば応募が減り、伝えなさすぎればすぐ辞める。どこまで伝えるかの線引きが、意外に難しいところです。



⑤ 定着に効く「仕組み」を取り入れる

守りを固めるだけでなく、積極的に定着を後押しする仕組みも取り入れたいところです。私がとくに効果的だと考えているのは、次の3つです。

まず、年次有給休暇を「取りやすく」することです。年休を「取られると人が回らない、コストが増える」という費用として捉えるのではなく、「取ってもらうことで人が辞めなくなる、定着への投資」と考え直します。
実際、人が1人辞めれば採用コストが丸ごと再発生しますから、年休の取りやすさで離職が減れば、かえってコストダウンにつながります。
そして「年休を取りやすい派遣会社」であること自体が、他社との違い=選ばれる理由になります。いまだに年休取得を敬遠する会社が多いからこそ、ここは特色を出せるところです。

次に、無期雇用という「安心」を提供することです。派遣スタッフがいちばん求めているのは、「安定して働き続けられること」です。ここで大切なのは、無期雇用は正社員化とは違うという点です。労働契約を無期にするだけで、勤務形態はパート(短時間)のままでも構いません。 会社の負担を抑えつつ、「雇用の安定」という安心を届けられます。

そして、資格取得を後押しすることです。中小の派遣会社が、立派な教育研修を自前で組むのは、実際のところ、負担が大きいものです。そこで現実的なのが、資格取得の支援です。受験料の補助や、講座・教材の紹介、勉強への配慮など、軽い負担で「ここで働くと手に職がつく」という前向きな理由をつくれます。定着だけでなく、派遣料金の単価アップにもつながります。

前回、就業条件明示書や苦情の相談窓口といった法令上の運用が、そのまま定着につながるとお伝えしました。これらは土台として欠かせません。そのうえで、さらに一歩進めたいのが、ここで挙げた3つです。

もっとも、これらをどう自社に落とし込むかは、一つひとつ設計が要ります。年休を取りやすくするシフトの工夫、どんな人を無期にするかの線引き、資格取得支援の具体的な中身――このあたりの実践的な進め方は、別途あらためて、詳しく整理してお伝えできればと思います。まずは、自社に合う形を一緒に考えるところからでも構いません。



おわりに ― 一人で抱え込まなくて大丈夫です

定着率の改善は、やるべきことの方向性ははっきりしています。一方で、①の数字での把握から、③の派遣先への働きかけ、⑤の定着の仕組みづくりまで、自社だけで進めるにはハードルがある部分も多いのが実際のところです。

もし、「方向性は分かったけれど、どこから、どう手をつければいいか」で迷われたなら、その現状把握と設計を、専門家と一緒に進めるという選択肢もあります。私は、派遣の法令実務を土台に、定着という切り口からもお手伝いできます。

3回にわたってお話ししてきた定着シリーズは、今回で最後となります。数字(事実)から、考察、そして実践まで、お役に立てていれば幸いです。




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①の数字での把握から⑤の仕組みづくりまで並べてみると、「全部はできない。どこから着手するか」で迷われると思います。診断は、その優先順位を絞り込むための材料になります。

15の質問で、就業前の説明が実態に合っているか、就業初期に状態を確認する仕組みがあるか、派遣先ごとの離職状況をつかんで改善を働きかけられているか、退職理由を記録できているかを確認できます。あわせて、料金の協議材料や契約更新の意向確認といった売上の面も点検します。手を付けていない項目が、そのまま次の一歩になります。

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