こんにちは。派遣の許可申請・調査対応、偽装請負・フリーランス法対策を専門とする社会保険労務士の東谷です。

同一労働同一賃金の共通編、第2回です。

前回(①明示編)では、雇入れ時の明示について取り上げました。
今回は、「どんなパート・有期雇用労働者に、どんな賃金や福利厚生を支払わなければならないのか」を、詳しく見ていきます。ここが、実務でいちばん問われるところです。
(なお「パートタイム・有期雇用労働者」とは、正社員に比べて労働時間が短い人、または契約期間の定めがある人を指します。呼び方ではなく、実態で決まります。詳しくは前回の記事をご覧ください。)


賃金や福利厚生の考え方が、明確になりました

今回の改正では、同一労働同一賃金ガイドライン(指針)が改正され、ここ数年の最高裁判決の内容を踏まえて、退職手当・家族手当・病気休職・夏季冬季休暇・褒賞といった待遇について、考え方がより明確になりました。

「どういう待遇差が不合理で、どういう差なら不合理でないのか」の基準が、これまでより具体的になった、ということです。

大切なのは、「正社員とパートで待遇に差があること」そのものがダメ、という話ではない点です。問題になるのは、同じような働き方・貢献なのに、差をつける合理的な理由がないときです。しかも、それを「給料全体でなんとなく」ではなく、賞与・手当・休暇など、一つひとつの項目ごとに、「その手当は何のために払っているのか(目的)」に照らして考えます。以下、代表的な項目を、分かりやすく解説していきます。

項目ごとに見てみましょう ― どんな人に、何を払うべきか

基本給

基本給を、たとえば「経験」「能力」「仕事の成果」「勤続年数」などをもとに決めているなら、その中身が正社員と同じパート・有期の人には、同じ基本給を払います。

違いがあるなら、その違いに見合った分だけ差をつけます。「正社員だから高い、パートだから低い」と、身分だけで機械的に分けるのはNG、ということです。

賞与(ボーナス)・退職金

賞与や退職金は、「会社への貢献に報いる」「長年の働きに報いる」といった目的で払われます。だとすれば、パート・有期の人にも、その貢献の度合いに応じた分を払う必要があります。

正社員と同じように貢献しているなら同じだけ、貢献が正社員より小さいなら、その度合いに見合った分を支給する、という考え方です。
つまり、「正社員ほど貢献していないから、支給しなくてよい」ということにはなりません。「パート・契約社員だから、ボーナスや退職金は一律でゼロ」という扱いは、不合理と判断されるリスクが高まっています。

無事故手当

たとえば運送業などで、事故を起こさなかった人に払う「無事故手当」。正社員と同じ仕事(同じ運転業務など)をしているパート・有期の人には、正社員と同じ無事故手当を払う必要があります。やっている仕事が同じなら、手当も同じ、という考え方です。

家族手当

家族手当(扶養手当)は、これまで「正社員だけ」という会社も多くありました。ですが、契約の更新を繰り返していて、これからも続けて働いてもらう見込みのあるパート・有期の人には、正社員と同じ家族手当を支払う必要があります。

なお、「どの程度の更新で該当するのか」について、明確な基準は示されていません。 更新の回数や勤続年数だけでなく、更新の実態(形式的なものか、実質的に継続が前提となっているか)や働き方の実態などから、個別に判断されることになります。「まだ2回しか更新していないから大丈夫」と形式だけで判断せず、自社の実態に照らして確認しておきましょう。

住宅手当

労働条件通知書に記載することは、いわば入口です。実際に、パートタイム・有期雇用労働者から正社員との待遇の違いやその理由について説明を求められたら、きちんと説明する義務があります。

ですから、待遇差の内容とその理由を、あらかじめ整理し、言葉にしておくことが大切です。「誰が説明を担当するか」も決めておくと安心です。この「待遇差をどう説明するか」の中身は、次回、詳しくお伝えします。

通勤手当・食事手当

通勤手当(交通費)や、お昼の食事代の補助などは、正社員かパートかで差をつける理由が、基本的にありません。ですから、原則として、正社員と同じように払う必要があります。

社員食堂・休憩室などの施設

社員食堂、休憩室、更衣室といった施設は、正社員と同じように、パート・有期の人も使えるようにします。
料金や割引に、正社員と不合理な差をつけてはいけません。対象は幅広く、食堂などだけでなく、駐車場や、会社が持つ保養所・体育館なども、使えるよう配慮が求められます。

病気休職・病気休暇

正社員が病気で休職したときに、一定期間お給料を保障している会社の場合、これから続けて働いてもらう見込みのあるパート・有期の人にも、同じように給与の保障をする必要があります。

なお、この「続けて働いてもらう見込み」の考え方は、先ほどの家族手当と同じで、明確な基準は示されていません。 更新の実態や働き方の実態から、個別に判断されます。

夏季・冬季休暇

お盆や年末年始などの夏季・冬季休暇も、パート・有期の人に、正社員と同じように与える必要があります。日数の考え方について明確な基準は示されていませんが、『パートだから与えない』という扱いは認められません。

褒賞(表彰)

「勤続◯年で表彰・記念品」といった褒賞を、一定の期間勤めた人に贈っているなら、同じ期間勤めたパート・有期の人にも、正社員と同じように贈る必要があります。


よくある誤解 ― この理由だけでは、待遇差は正当化できません

会社側の説明としてよく聞くけれども、それだけでは理由にならないとされているものが2つあります。

「定年後の再雇用だから」

「定年後に再雇用した嘱託社員だから、待遇を下げてよい」と考えている会社は少なくありません。ですが、正社員と定年後継続雇用の有期雇用労働者との待遇差が不合理かどうかも、それぞれの待遇の性質・目的に照らして判断されます。「定年後の継続雇用だから」というだけで、当然に不合理でないと認められるわけではありません。

「正社員の人材を確保したいから」

「正社員に人材を確保・定着させたいから、正社員だけを優遇している」という説明も、よく聞かれます。しかし、こうした目的があったとしても、その目的だけで、当然に不合理でないと認められるわけではありません。 待遇差が不合理かどうかは、その待遇の他の性質・目的にも照らして判断されます。

いずれも、「この理由があるから大丈夫」と安心せず、手当や休暇の一つひとつについて、その目的に照らして説明がつくかを確かめておく必要があります。


労働局の調査で指摘されることもあります

ここまで見てきた待遇差について、労働局の調査が入ることがあります。 そこで、記載してきたような考え方に照らして「不合理な待遇差がある」と判断された場合、賃金の支払いや待遇差の解消、就業規則の変更などを指摘される可能性があります。

「今まで何も言われていないから大丈夫」ではなく、指摘を受ける前に、自社の待遇を点検しておくことが大切です。


いちばん大事な注意点 ― 「正社員の待遇を下げる」で解消してはいけない

ここで、絶対に押さえておきたい点があります。待遇差を解消するとき、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パート・有期雇用労働者の労働条件を改善する形で行うことが求められます。

つまり、「パートにも合わせると負担が増えるから、正社員の手当のほうをなくす」という対応は、望ましくありません。それは別の労務トラブルや、労働契約法上の問題(正社員の不利益変更)につながるおそれがあります。あくまで、非正規側の待遇を引き上げる方向で考えるのが原則です。


やっておくこと ― 待遇編

ステップ1 ― 待遇の棚卸しをする

まず、自社のパート・有期雇用労働者について、正社員との間に、基本給・賞与・退職金・各種手当・休暇などでどんな差があるかを、一つずつ書き出します。

ステップ2 ― 差の「理由」を点検する

それぞれの差について、その待遇の目的に照らして、合理的な理由があるかを確認します。労働者から「なぜ私にはこの手当がないのか」と聞かれたときに、客観的に説明できるよう、整理しておきます。「なんとなく」「昔からそうだから」では通用しません。

ステップ3 ― 就業規則・規程を見直す

点検の結果、見直しが必要な待遇があれば、就業規則や賃金規程などに反映します。制度と規程の内容が食い違わないよう、あわせて整えます。


おわりに

今回は、パート・有期雇用労働者にも支払うべき賃金や福利厚生について、項目ごとに見てきました。ポイントは、賃金全体で何となく考えるのではなく、項目ごとに目的をたどって、正社員との差に説明がつくかを確かめることです。

「うちの手当や休暇は、説明できる状態になっているだろうか」と気になったら、どうぞお気軽にご相談ください。

これで、全企業に共通する対応(共通編)は一区切りです。

このnoteでは、これからも派遣・請負・フリーランスにまつわる実務の話を、分かりやすくお届けしていきます。


ご相談はこちら

待遇の棚卸しや、待遇差の理由の整理、就業規則・賃金規程の見直しなど、10月1日に向けた準備を、当事務所がお手伝いします。

▼ ご相談はこちら https://srhigashitani.com/contact/
まずはお気軽にお問い合わせください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。待遇の考え方は個別の事情により結論が異なり、改正の取扱いも施行に向けて更新されることがあります。具体的な対応にあたっては、最新の情報をご確認のうえ、当事務所にご相談ください。

本を出版しました!

 本書は、3年間、大阪労働局の需給調整事業部(派遣法の指導監督を行っている部署)で需給調整事業専門相談員として派遣会社や派遣先の企業、社労士や弁護士の方からの相談業務を担当していた筆者が、労働者派遣法のことが全く分からない方や派遣業務が未経験の方でも簡単に派遣関係書類(今回説明させていただいた労使協定や個別契約書等)が作成できるよう、記載例も掲載しわかりやすく解説させていただいています。

 本書をご購入いただいた方につきましては、各種派遣関係書類を税務経理協会様のホームページからダウンロードしていただけます。

 労働局の調査に頭を悩まされている派遣元の担当者の方や派遣先の担当者の方、社会保険労務士の先生方など派遣業務に携われる方は是非、ご一読ください!

 本書は専門書のため、Amazonやジュンク堂書店、紀伊国屋書店等の大型書店にてお買い求めいただけます!