こんにちは。派遣の許可申請・調査対応、偽装請負・フリーランス法対策を専門とする社会保険労務士の東谷です。
派遣の書類のなかでも、意外と落とし穴が多いのが「就業条件明示書」です。今回はこの就業条件明示書を取り上げ、見落としやすいポイントを整理します。項目が多いため、まずはパート1として前半の要点を、続きは次回のパート2でお伝えします。
そもそも「就業条件明示書」とは
まず、ここが最初の落とし穴です。就業条件明示書は、派遣元が「派遣労働者本人」に対して就業条件を示す書類で、その中身は、派遣元と派遣先との間で結んだ「労働者派遣契約(個別契約書)」の内容を、派遣労働者に伝えるためのものです。
ここで押さえておきたいのが、同じ「労働者に示す書類」でも、労働条件通知書や雇用契約書とは、記載する内容が全く違うという点です。労働条件通知書や雇用契約書が、派遣元と派遣労働者の間の雇用そのものの条件(賃金や契約期間など)を示すものであるのに対し、就業条件明示書は、派遣先での就業条件(派遣契約の内容)を示すものです。役割がまったく異なるため、どちらか一方があれば足りる、というものではありません。
なお、就業条件明示書は、派遣就業を始める前に、書面等で示す必要があります。「派遣契約書を作ったから明示も済んでいる」という思い込みにも注意が必要です。
落とし穴①「業務の内容」が抽象的すぎる
「業務の内容」は、単に「一般事務」などと仕事の名前だけを書くのは適切ではありません。とはいえ、詳細な業務を何行にもわたって細かく書き込む必要もありません。派遣スタッフに担当してもらう主な業務を挙げ、最後に「その他これに付随する業務」と締める——この程度で十分です。目安として、2〜3行ほどの記載で結構です。何をする仕事なのかが本人に伝わる書き方になっていれば大丈夫です。
落とし穴②「責任の程度」は、役職の有無の書き忘れに注意
「責任の程度」は、令和2年の改正で加わった項目です。これは基本的に役職の有無を記載するもので、通常は「役職なし」「主任」「リーダー」といったように、役職の有無のみを書けば足りるのが一般的です。
実務でよくある不備は、次の2つです。ひとつは、役職の有無そのものを書き忘れていること。もうひとつは、逆に、部下の人数など、役職以外のことまで細かく書き込んでしまっていることです。役職以外の内容を記載しても差し支えはありませんが、通常は役職の有無を書けば十分です。まずは「役職の有無が書けているか」を確認しましょう。
落とし穴③「組織単位」は「課」で書くのが無難
「組織単位」は、課やグループなど、業務としての類似性・関連性があり、かつその組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督の権限を持っている組織を記載します。ここがあいまいだと、個人単位の期間制限(同じ組織単位で3年まで)の判断にも影響します。
実務上は、迷ったときは「課」単位で記載しておくのが無難です。「なんとなく部署名を書く」のではなく、実態に合った単位を、原則として課単位で正しく特定しておきましょう。
落とし穴④「抵触日」は2種類ある
次に、期間制限に達する日である「抵触日」を記載します。注意したいのが、「事業所単位」と「組織単位」の2つの抵触日があることです。そして、事業所単位の抵触日は延長できても、組織単位の抵触日は延長できません。 手続きを適正に行わずに期間制限を超えて受け入れると、派遣先は労働契約申込みみなし制度の対象になります。
労働契約申込みみなし制度の対象になると、派遣先が、その派遣労働者に対して、派遣元での労働条件と同じ内容で直接雇用を申し込んだものとみなされます。 そして、派遣労働者がこれを承諾すれば、派遣先との間に直接の労働契約が成立します。つまり、派遣先が望んでいなくても、その派遣労働者を直接雇用しなければならなくなるということです。抵触日の管理を誤ると、これほど重い結果につながりかねません。
さらに見落とされやすいのが、期間制限の例外に当たる場合の書き方です。無期雇用の派遣労働者や60歳以上の方など、期間制限の対象外となる派遣労働者については、そもそも抵触日がありません。この場合は、空欄にするのではなく、「無期雇用派遣労働者のため抵触日なし」などと、その旨をきちんと記載します。抵触日がない場合でも、空欄のままにすることはお勧めしません。空欄のままだと、記載漏れとみなされる可能性があります。
落とし穴⑤「就業日・就業時間・休憩時間」の書き方(特にシフト制)
実務でもっとも多く不備を指摘されるのが、就業日、就業の開始・終了時刻、休憩時間の記載です。なかでも、シフト制の場合の「就業日、就業の開始・終了時刻、休憩時間」の書き方でつまずくケースが非常に多く、労働局の調査でも指摘されやすいところです。
ポイントは、明示書とシフト表の組み合わせ方にあります。就業条件明示書の就業日・就業の開始・終了時刻、休憩時間の欄は、「シフトによる」という記載にとどめておいて構いません。 そのうえで、就業日と始業・終業時刻、休憩時間を記載した「シフト表」を別途添付しておけば、就業日等が特定できるため、不備とはされません。 逆に、シフト表を添付せず「シフトによる」とだけで済ませていると、就業日等が特定できず、指摘の対象になり得ます。
おわりに(パート1)
就業条件明示書は、派遣スタッフ本人に、派遣先での就業条件を正しく伝えるための書類で、労働条件通知書や雇用契約書とは役割も中身も異なります。
今回見てきたように、責任の程度(役職の有無)・組織単位・抵触日・就業日など、一つひとつの項目に書き方のルールがあります。
次回のパート2では、安全衛生や苦情処理、契約解除時の措置、紛争防止措置、備考欄など、後半の項目の落とし穴をお伝えします。
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このnoteでは、これからも派遣・請負・フリーランスにまつわる実務の話を、分かりやすくお届けしていきます。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。就業条件明示書の記載事項や様式は、取引の実態や法改正により変わることがあります。具体的な作成にあたっては、当事務所にご相談ください。
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